AEVE ENDING
「…あらまぁ、無茶したのなぁ、倫子」
医務室へ倫子を連れて行けば、いつものようにやる気のない奥田がそう言って出迎えた。
しかし、奥田ひとりではない。
真っ白な室内には、見覚えのある顔がもうひとつ。
「あら、雲雀さん」
真っ直ぐな黒髪を背中まで伸ばしている女性──東部箱舟の医療を牛耳る女教師、ササリである。
雲雀はそちらを一瞥しただけで、空いた奥のベッドへと倫子を運んだ。
「セクションで事故でもあったら大変だからさぁ、ササリにも応援頼んだんだよ」
尋ねてもいないのに奥田はペラペラと口を開く。
それを余所に、雲雀は倫子を横たえた。
いつの間にかぎっちりと掴まれていた上着に機嫌が傾く。
上着を掴まれたまま動けず、無表情に苛立っている雲雀を気にしたふうもなく、ササリは無言のまま、倫子の顔色を看た。
「あんだけ流血して輸血せんかったからなぁ。ササリ、どんな感じ」
薬品棚をカチャカチャさせながら、奥田は真横から倫子を覗き見た。
普段の血色の良い頬は青白くなり、唇の色すら失われている。
「過労よ。能力が著しく低下してるわ。一体なにしたんだか……」
倫子の濡れた髪の毛を梳いてやりながら、ササリは呆れたように息を吐いた。
「…過労ねぇ。雲雀チャン、倫子なにしたの?」
「…さぁね」
掴まれたままの上着が相当気に入らない雲雀は、奥田の純粋な問いに、なんの抑揚もなく答えた。
「しかもシャツ、ボタン取れちゃってるじゃない」
倫子の開いた胸元を閉じてやりながら、ササリは眉間に皺を寄せる。
一体なにがあったというのか。
「しかも、全身濡れてるし」
「え、なにプレイ?」
「あんたは黙ってなさい」
「どうしたのよ、みちこぅ」
保健医ふたりが倫子を取り囲む。
一生徒に大した構いようだ。
「服を脱がさなきゃ。濡れたままじゃ風邪引くわ」
「体力も落ちてるしなぁ」
倫子の濡れたシャツに手を掛けたササリの横で、手伝う、と豪語してスカートに手を掛ける奥田。
それに思い切り肘鉄を喰らわせたササリは、カーテンの向こうへ奥田を押しやった。
「え、ちょ、サーサーリーさぁ~ん」
カーテン越しに奥田の情けない声が響く。