AEVE ENDING






「弱者のなかの弱者は、身を守る術を知らない」

この傷付いた体は蹂躙されてぐちゃぐちゃになって、いつか形を成さなくなる。

「なに、」

それを、自然の摂理に任せたくないのでしょう、お前は。

この体を、傷付けていいのは。

(僕だけ)



「―――痛い…」



(雲雀だけ)



「…心臓が壊れそうだった。完治していなかった右腕の縫合が留学生の威圧感に圧されて、ぶちぶち切れてって、内臓が圧迫されて、血を、いっぱい、吐いた」

血だけじゃない。

空腹を満たすために嚥下したもの全て。
液体も物質も、半固形も全部。

「体の中から、全部、腐って溶けてっちゃうみたいで」

真醍に体の異常を気取らせたくないが為に、無理を言って島に帰らせた。

あとは独りで。

ずっと、独りで。

巨大な気配に、脅えて。


―――また、戻ってしまうのかと。

あの醜いだけの、直視すらできない、あの醜く憐れな、姿に。

こわかった。
心底から。

痛みに打ち震える間に、何度も。

(あんたの名前を、呼んでた)

馬鹿みたいに、それしか紡がない喉を持ってしまったように。

私は。



「…脅えてたね」
「泣き声だった?」
「悲鳴に近かった」
「悲鳴で、あんたを呼んでた?」

―――そう、悲鳴で。
あんたを、待ち焦がれていた。

(それは叶わぬ夢でなくては、ならなかったのに…)

それなのに。



「…なんで、きたの」

間抜けに零れ落ちたしょっぱい雫が雲雀の胸を伝う。

どうして、きたの。


「…さっきも言ったでしょう」

───呼ばれたのだと、男は嗤う。

(まるで、私を惑わすように)

ただそれだけだと、嗤う。



(…ねぇ、それは)


高潔なる神を、貶める言葉だ。







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