AEVE ENDING






(なにが目的かははっきりしないけど、橘に僕と同じ程度の力を求めるなら…、傀儡として、橘に力の解放を強要させるとしたら…)



「―――…、」

あの欠陥だらけの身体など、きっと簡単に壊れてしまうのだろう。

(少し力を使っただけで外見に被害が出る。まだ治癒できるレベルの怪我だけれど、もし、全力を出すことになれば)

外見だけでなく胎内にも処置しようのない被害が出てくる筈だ。


(―――所詮、捨て駒。死んでも構わないということか)


どこまでも、カワイソウな橘。




「修羅と謳われる君が、たかが一人のアダムにそれほど執着するとは…。理由をお聞かせ願えるかね」

ずるり、と音を立てて白濁した視界が雲雀を捕らえた。

雲の流れに合わせて揺れる艶やかな黒が、静かな部屋に更なる静寂を呼んでいる。


(…理由、なんて)

そんなもの尋ねられて答えられるはずもない。

(…僕が訊きたいくらいだ)

この胸を急かす衝動の名を、雲雀は知らない。

外装でしか判断できない人間なら或いは、それを恋と呼ぶかもしれないが、そんな浅はかで薄っぺらい名など雲雀は必要としていなかったし、認めるつもりもなかった。

衝動的な殺意にも似た、真っ黒な激情。


(憎しみ、なのか)

この手がどう足掻いても手にできないものを、彼女は持っているから。

この手が求めなくていいものを、彼女は僕に差し出そうとするから。

(煩わしい、とすら)

この不可解で不愉快な感情こそ、必要ないのに。

それなのに、目の前の男は問うのだ。

答えられもしないことと、知りながら。

雲雀すら知り得ない答えを、求めているのだ。




「…それを知るために、執着しているのかもしれない」

ぽつりと吐き出されたそれは、彼が漏らした唯一の本音だった。







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