AEVE ENDING






(こいつが本当にタチバナなのかも疑っちまわぁ)

まさか倫子の皮を被った本物の人形ではあるまいか。

冷たい半裸体に目を奪われたままの真醍に、倫子の脚が素早く伸びた。
それをいち早く本能で感じ取った真醍だが、相手が倫子故、攻撃を兼ねる防衛に躊躇する。

(…傷だらけの細い脚を斬りつけるわけにもいかねえな。なんてったってそれやっちまった後の雲雀が怖いし、―――ダチに手なんか上げられねぇよ)

命を賭けた喧嘩の最中、躊躇は命取り。

ゴ、と鈍い音が下半身から響いたと思えば、膝下、脛にズキリと響く重い痛み。

(古い言葉で、なんたらの泣き所って言ったっけなぁ)

こんな状況下にあっても暢気な思考は性格と性質のうち。

痛みに多少揺らいだ真醍の腰に更に素早く一発を喰らわせ、傾いた巨体を床にうつ伏せに倒す。
そのまま派手な着流しの背中に乗り上げると、その短い髪を遠慮なしに後ろから掴みあげた。


「…っでぇよコラ、タチバナン!」

掴まれている感触。
指の隙間でぶちりと髪が切れた音。

どうする気か、と考えたと同時、―――パンッ。


「…っ、」

頭の中で、ゴムボールが弾けたような音がした。

電流。
脳味噌を直接揺るがされる感覚、頭の中に熱湯でも注がれてしまったかのように、熱い。


「… く そ、」

意思に反して勝手に遠くなる意識が憎い。

動こうとしない体。
背中にあった重みがなくなる。

霞む視界の端から、暗闇が迫ってくる。

―――覆われる。


(…もう、戦えねぇ)




気掛かりなのは、友二人の行方。



―――何処へ行く?









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