AEVE ENDING







―――雲雀の機嫌は頗る悪かった。

それは周りの目から見ても明らかで、普段からあまり感情を露にしない雲雀だからこそ、それはそれは嫌な空気が彼の周囲に漂っていた。


―――東部箱舟、倫子と真醍が感動の抱擁を済ませてすぐのこと。

呼んでもいないのにやってきた奥田と箱舟連盟監査官三名に、幾田桐生を引き渡し、その思想の危険性からアダム専用の刑務所へと強制連行させた。
ついでに雲雀のカリスマを利用して操られていた生徒全員を寮に帰らせ、後始末は駆けつけた国の役員達へと引き継ぎ、捕縛されていた倫子も救出したということで、こうして無事西部箱舟へと帰還したわけだが。

桐生の逮捕により大規模なアダム犯罪の発覚に箱舟連盟と国との間に深刻な亀裂が走ったが、雲雀にはあまり関係ないので、大した問題ではない。

とにかく、雲雀は不機嫌だった。

それはもう、自分でも理解できないほどに。



「…、」

先程から頭の中をループする人物は、ただひとり。
そのことすら雲雀の神経を逆撫でる要因になっている。

西部の自室に籠り、テラス側に向いたソファに腰かける。

手には香り高い紅茶。
効能は滋養強壮、精神安定―――であって欲しい。
一口飲む度に落ち着くかと思えば、そのカップは以前、馬鹿者が指導中に割ったものと同じである。

それが、また。




パキン。




「…信じられない」

手にしていたカップが割れた。
力のコントロールを忘れたことなど、アダムになってから一度もなかったというのに。

陶器より白い指先を伝う紅茶が、ぱたりと床を叩く。

頭を巡るのは。




『まだい、まだい』


なに、あの甘えた声。



『まだい』

(―――雲雀)


『まだい』

(雲雀…)



『―――まだい』




ガシャン!

苛立ち紛れに欠けたカップを窓に叩きつければ、粉々になった破片が見事に散らばった。
床に転がったそれに、雲雀は深く溜め息を吐く。



―――自分がとてつもない莫迦になった気がした。







< 705 / 1,175 >

この作品をシェア

pagetop