AEVE ENDING
お気に入りの洋書。
兄から譲り受けたお下がりを既にまとめてあった荷物のなかへと加える。
「これからは毎日、雲雀さんと一緒ね」
荷造りする真鶸をどこか誇らしげに見つめながら、彼女は言った。
産まれつき病弱だった真鶸は、どんな小さな傷も付かないようにと育てられ、免疫力が人よりぐんと低い分、常に殺菌消毒されたこの美しいテラスで暮らしていた。
この清浄過ぎる温室が真鶸の家であり、部屋であり、庭だった。
非力でおっちょこちょいで、あまり利口でもないが、この度、新人類アダムとして覚醒し、身体も少し丈夫になって、兄の居る箱舟へと収容されることになったのだ。
「兄様と会うのはいつぶりでしょうか」
「まぁ、はしゃぎすぎちゃだめよ」
―――ほら、母親のようなことを言う。
彼女は確かに真鶸の母であったが、その年齢不詳の美貌や、家事をしない綺麗な指や爪だとか―――あぁ、それから品のある喋り方だとか。
彼女は誰が見ても、子を持つ成熟な女性には見えなかった。
「雲雀さんと一緒にいれるよう手配しておきましたから、心配せずにいってらっしゃい」
にこやかに微笑む。
もういつ会えるかもわからない息子を送り出す母親の顔、ではなかった。
いつだって同じように微笑み、同じように言葉を発する。
まるで精巧に作られた、人間のようであって人間じゃない、美しい幻のように。
それが、彼女だった。
「立派なアダムとなって、國の役に立ちなさい」
―――ここは、鳥籠だ。