AEVE ENDING






「―――…っ!」

暗澹とした視界が急激に開ける。
喉に詰まる唾液が、酷く不快だった。

(…キモチ、ワルイ)




「起きたの?」

耳に心地よい音が届く。

ひばり。

声は確かにするのに、暗い部屋を見渡しても影すら見当たらない。

ひばり。



「雲雀…、どこ?」

口にして、あまりの情けなさに口を噤んだ。

なんだ、この枯れた声。
寝る前よりずっと、意識ははっきりしてるのに。

(独り…)



「ひば、」

胸に湧いた、色に例えるなら黒い孤独感と喪失感に耐えきれず、ぐらぐらと沸く頭に耐えて半身を起こす。
捲れたシーツに、露出した肌がぞわりと震えた。
ひやりと爪先に触れた、無機質な温度に身を竦める。



―――真っ暗だ。


(…ここ、どこ?)

暗闇は、いやな記憶を引き摺りだそうとする。

思い出したくなんかないのに、正気の意識を眠らされて墜ちていく―――先は、狂気の沼だ。




『きもちわるい、』

『…近寄るな』

『オマエなんか、』








「―――橘…」

がしり、と首根っこを捕まれた。

ひくりと喉が鳴いて、呼吸困難に陥っていた気管が性急に呼吸の仕方を思い出す。

「…っ、」

ひばり。

縋るよう伸ばした片腕を捻るように掴まれて、体勢を変えて頬を撫でられた。

「…橘」

粉々になった私の断片を、拾い上げていく。
さらさらと流れてゆく彼方の、端々に散らばるすべて。

「ひばり、…っ、」

ひきちぎってしまうのではないかと思うほどの力でその腕を掴む。

ひくり、鳩尾が震えた。


「ぅ、ぁっ」

込み上げる熱を止める術を、私は知らない。

熱く震える胸が憎らしい。



「…橘?」

なんで、なんでなんでなんで。

こんな記憶、知らない。

こんなの、私の過去なんかじゃない。


―――こんなの、あんまりだ。




「ッ…、」

こめかみが高く鳴いて目眩がした。
理性を喪いかけた腕で必死に縋りついて、それから。


「怖い夢でも見たの?」


そうして、抱き止められて。





< 759 / 1,175 >

この作品をシェア

pagetop