AEVE ENDING
ひくひくと震える肩は、今にも崩れそうだった。
気配を探りながら歩を進めて、半刻。
西部箱舟の一番端に位置する回廊の終点に、彼女は、いた。
「…橘」
真白の柱に隠れるように蹲まるそれはどこか大きな迷い子のようで滑稽で、そうして呼べば、気配で気付いていただろうに、大袈裟に肩が跳ねた。
こちらに背を向けた状態で、震えている。
これはなにか言っても無駄だと、自然と漏れる溜め息にすら反応した体に呆れた。
(―――ねぇ、僕が君を責めると思うの?)
かつり、近付けば、立てた膝に顔を埋め、それすら腕で覆い隠す倫子が。
少なくとも息をしている様子に、安堵、したのかしていないのか。
「…橘」
もう一度、呼ぶ。
ぐすりと鼻をすすり、顔を上げないまま倫子の喉が震えた。
「ま、まひ、…まひわ、は」
ほらそうやって、背負う必要もないのに背負い込んでいる小さな肩が。
「大丈夫だよ」
それは彼女の問いに答えたわけでも、なく。
明らかに安堵の色が濃い溜め息を耳に、促す。
「…顔、上げたら」
その小さくなっている体の前に膝を着くが、否定するかのように自身を強く抱き込んだ態度に少し腹が立った。
憐れむべき彼女はなにより、自らを殺したいほど、憎んでいる。
(―――それなら早く、牙なり爪なり向ければいいのに)
「…っ」
潮風に揺れていた髪を根こそぎ鷲掴み、隠されていた顔を無理矢理、上げさせた。
音にならない小さな悲鳴を耳に、少しだけ微笑する。
(…外界のなにとも交信なく繋がりなく、ただ僕の声だけに反応すればいい)
「酷い顔」
バシッ。
泣き崩れた顔を遠慮なしに嘲笑えば、苛立ちも露に手を振り払われた。