AEVE ENDING
「全く、昔を思うと恨めしい。私が根回しする前に、まさか貴様が回復してしまうとはな」
だからこそ、倫子は助かったのだ。
憐れな実験体に興味を抱いたこの男の触手が伸びる前に修羅のレプリカとして安定した倫子は、政界に籍を置くこの男の権力が届かないこの箱舟へと収容された。
「あの時を思うと、今でも口惜しくて眠れぬ。…どんな女を抱いたとて貴様のバケモノ面が忘れられぬのだ。まだ一度も手を触れていないからこそ、…のぉ、バケモノ」
―――知るか、この老いぼれが。
「今なら多少は無茶をしても死ぬまい?昔のようにワシを殺そうと息巻いてみろ。逆に傷ぶってやるわ」
男は興奮を隠せぬ様子でネクタイを緩めた。
脂ぎった首元が弛み、あまりの醜悪が気色悪い。
「抵抗したくともできまい?その鎖は特殊なものだし、なによりお前は、力を解放すれば死んでしまうと聞いた」
にやり。
唾液を纏った太い舌が外気に光る。
あれに舐め回されるのを思うと、吐き気がした。
―――でも、なあ、狸。
「オマエ、死ぬよ」
今の私はもう、生にも死にも執着していないから。
『君なんか要らない、橘』
だってなにより失くしたくなかったものを、手離してしまったのだ。