AEVE ENDING






「アナセスも興味持ってたしー」

もとはといえば、アナセスが語りかけた言葉により怒りのスイッチが入ったと言っても過言ではない。
いや、最初からキレてはいたが。


「…あの子、人間みたいだったわ」

ニーロの小さな呟きが、いやに耳についた。


「人間」。

確かに、あそこまでアダムの気配が漂わない者も珍しい。
箱舟にいるのだから、当然アダムであろうが、あれは異常なまでに人間臭かった。


「混沌としてるのよ。思考を読み取ろうとして読み取ったわけでもないのに、彼女の場合は、その中身がぜんぶ流れてくるの」

それは人間と同じだ。

アダムに抵抗を持たない人間は、その思考を簡単に読み取られてしまう。



「…ぐちゃぐちゃなの。色んな色が混ざりあって、でも混ざりきらない。感情の波がただ流れてくるだけで、考えも言葉も真意も読み取れない」

しかし、アナセスはなにかを読み取ったからこそ、彼女に声を掛けたのだろう。

ロビンが聞く限りでは、アナセスはただ慈悲深い言葉を投げただけだ。

猛った気を沈め、己の罪を悔い改めるように、と。




『無知な神様』

『あんたに、私の醜さなどわからない』


図星を指されて激昂したのか?


(いや、どちらかと言えば、諦観…)

―――そこまで考えて、「バカ女」のことを真剣に考えてしまっている自分に気付き、慌てて頭からその憎々しい顔を追い出した。



「オレ、最初はあの女がシュラだと思ったんだけどなー」

シュラ。

「確かにね。あの異常なまでの激情はまさしく、「修羅」だわ」
「しかも、ホンモノの修羅ともただならぬ関係…だったっぽいし?」

ジニーがギョロリ、愉快だと笑う。
相当、あの「バカ女」が気になるらしい。


「どっちにしろ、あの女は独房に入ったんだろ」

せいぜいアナセスに吐き捨てた無礼な言葉の数々を悔い改めろ、と胸中で唾を吐いた。
しかし、ジニーの次の言葉はまさに寝耳に水で、ロビンを仰天させるには充分だった。


「それだけど、どうやらホンモノの修羅が連れ出したみたいだよ。独房は空っぽ。なんでか知らないけど、いたのは政治家のオッサンが一人。しかもチャック全開で瀕死状態だって。超ウケるーヒヒッ」




―――あぁ、どうなっているんだ、この国は!






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