AEVE ENDING
「彼氏と一緒に居たら、急に頭の中に声が流れてきて」
アミが忌々しげに眉を寄せた。
「しかもその内容っていうのが」
アミが私を見る。
私もアミを見る。
タイミングを図るように目配せして。
「「アミにはもう飽きちゃったナ」」
真剣な表情で睨み合い、発した二人の声は見事に重なった。
「ぷっ」
一拍置いて、周りを気にすることなく下品に大笑いした。
周囲から注ぐ不快げな視線を無視して、食堂のテーブルを乱暴に叩きながら私達は笑い転げた。
この話をアミとするのはこれで何度目だろう。
その度に爆笑して、渦中の男を二人して詰りあった。
「しかも聞こえたのがキスしてる最中よ?有り得ない!」
「だから蹴ったんじゃん」
「当たり前よ。あんな男のモノなんて使い物にならなくて当然だわ」
鼻息荒く吐き出したアミをくつくつ笑いながら、私は玉子ンドイッチを口に放り投げた。
「人間」の思考が「アダム」に流れることは別に珍しいことじゃない。
アダムが自ら思考を垂れ流すことはないけれど、能力に免疫がない人類の思考はアダムに筒抜けなのだ。
それは約束であり常識であり、摂理。
なのだが。
「そういえば、あんたは、違ったんだよね」
アミがサンドイッチに挟んであったピクルスを抜きながら、ふと思い出したように言った。
アダムには、覚醒時点で意識が漏洩しない為のストッパーが掛かっている為、自分の思考を他人と共有してしまうことはまずない。
アダム同士なら、その力の差によって思考を読まれる場合もあるけれど、余程の能力差がない限り起きることではないし、本人の意志に反して故意に思考を読んだ場合、思考盗難、と云う刑罰を与えられる場合もある。
「…ああ、うん」
呟きながら、玉子を奥歯で噛み砕く。
そうなのである。
私は「アダム」でありながら、「人間」に思考を流し込んでしまう。
もし相手がアダムで、私が無防備な人間なら、それは不思議なことじゃない。
でも。
「検査の結果、アダムの反応があったのはあんたのほうなんでしょう?」
アミが私を覗き込んでそう言った。
(―――検査の結果、か…)
それは酷く曖昧で、都合のいい言葉だ。