AEVE ENDING



私を生かしたのは神ではなく奥田でもなく奥田の同業者でもない。

私を殺したのは彼であり神であり奥田であり奥田の同業者である。






「ミーチーコ!」

西部箱舟の大型食堂。
西部で働く者、生活する者すべての食を管理している場所だ。
今は夕飯時、新しくペアを組んだ皆皆でいつも以上に活気に溢れている。

そこへ夕食を取りに来ていた倫子を、よれた白衣の男が呼んだ。

「…奥田」

卵ともやしの味噌汁を片手に、倫子は奥田を見やる。
皺だらけの白衣を幽霊のように揺らしながら、人の波を縫って近付いてきた、その男。

「ちょっとなーにー?その恨めしげな目。先生ちょー傷付くんだけど」

咥え煙草を胸ポケットにしまいながら、倫子の機嫌を窺うように顔を覗き込んでくる。

「キメーんだよ、このロリコンが」

しかし倫子の機嫌は相当悪かった。

「あー!傷付いた!グサッてきた!せんせーは!傷付いた!」
「ウッザ」
「…もう先生、駄目だ」

長テーブルの前でヨレヨレと傷付いた心を体現する奥田を無視して、倫子は湯気立つ白飯に味噌汁をぶっかける。

普段、馴れ合うことをしない教師と生徒。
端から見れば少々異様な光景だが、西部のアダム達には見慣れたものだ。
西部箱舟では、二人は既に名物と化している。

しかし今は、普段居ないはずの東部の連中もいるので目立ちようが尋常じゃない。
けれど 二人揃ってそんなことを気にする繊細な心は持ち合わせていないので、東部アダム達は遠慮なく好奇心の目を向けていた。

そうでなくとも雲雀のパートナーになったラッキーな落ちこぼれ扱いされている倫子だ。
今となっては東部に限らず、好奇以上に逆恨みの視線を向けられていた。

猫まんまに夢中になる倫子を見下ろし、奥田は首を傾げた。


「倫子、修羅くんは?」

セクションのペアはふたり一組行動が原則である。
さすがにトイレも風呂も一緒に居ろとは言わないが。

「知るか」

倫子からは相変わらずつれない返事ばかり。

「なに、まだ怒ってんの?しつこいわー倫子ちゃんはあ」
「しつこいのはお前の性欲だろ、加齢臭やろう」

ずるるっと味噌汁にひたひたになった米粒を啜りながら、倫子は奥田を責めることに余念がない。


「…あ、俺もう立ち直れない。沈んだまま浮かんでこれない」
「そのまま一生、浮いてくるな」




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