AEVE ENDING






じりじりと、自分と似た波動が皮膚に刺さり始める。

目の前に立つ倫子は、正気だ。
正気だからこそ、悲しみに身を委ねようとしている。

涙すら湛えない乾いた眼球は、なにを見ているのか。

雲雀の姿などとうに、見えていない。




『汚い…この体は、あんたが思ってるより、ずっと』

君は知らない。


(君が思っているより、君はずっと、…)




「…もう、遅かったんだ」

涙を滲ませるような声で、彼女は罪を嘆くのだ。

高く高く、最も天に近いこの地で、彼女と会うために、僕は待っていた。




「…もう、ずっと昔から、決まってた」

罪はただ拭われることなく胸に痼(しこり)となって。


「なにもかも、遅い…」


救われる価値はないのだと、君は。




「…ひばり、」

その視線はいつだって強く在るのに、どうして今は、そんな壊れそうな危うさで。

己のうちで吹き止まない風に消されないように、耳を澄まして。



(雲雀に、会わなきゃ、会わなきゃ、そしたら、わたしは)


―――未練なく、償えたのに。



反射するテレパス。

彼女はいつも、心臟で泣く。






「…僕が、未練なの?」

問うたそれは倫子の唇を震わせて、そしてなにより、雲雀の歓喜が滲み出ていた。

倫子はひくりと目許を揺らしながら、それでも真っ直ぐに、雲雀を見ている。

未だ続く暴走は倫子の体を徐々に蝕み、薄いブラウスには血が滲みはじめていた。



(これ以上は、)


きっと、耐えられない。


(僕も橘も)

その圧倒的な力に、本能がざわめきだしていた。

遺伝子に組み込まれた、破壊の意思が覚醒しようとする。

桐生の狙いは、それだ。




―――けれど。






「…全部、壊したいの?」

あとはもう、彼女に従うだけ。

今ここで朽ちようが、もうどちらでも構わない。

彼女が視界の端に在るなら、もうそれだけで。




「…世界を、壊したい?」

橘、優しい君にはきっと無理だろうから。

だから、君がここで頷けば、僕が壊してあげる。

君に罪悪を擦り付けた世界に、報復を。



(君が望むままに)


無力だった僕ができる、唯一の罪滅ぼし。







『雲雀』



―――あぁ、でも。

その声を僕はまだ、失いたくない。







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