銀鏡神話‐翡翠の羽根‐
瞬間的に其処に向かってナイフを投げると、当たりだ。

新人さんが苦虫を潰した様な顔をした。

ナイフは新人さんの右腹部に刺さった。

だが諸ともせずに彼女は私に殴りかかる。

交わす為に首を左方に傾けた。

地面にグローブがめり込む。

土の片が飛び散った。

目に入る。

『天武之五道 軌磐旅架』

武道?

いや、でも此は天界の天力も感じ取れる。

『赤月さんっ……』

鎖葉斗君が右手から鎌を出す様子が視界の片端に見えた。

とっさに大丈夫、と鎖葉斗君に伝えると、私は

『第四刀・梓闇』

紫、蒼、橙、緑の短刀を新人さんに投げた。

黒い若葉が新人さんの周りに生え渡った。

梓闇に錬成したのは、ヴィルネージ。

闇属性の魔術で、暗黙の若葉で相手の手足の自由を奪う。

『くっ────

駄目…… 駄目!!』


ブチッ


梓闇の荊が千切れる。

彼女の両手から発せられる赤い炎が、次々と梓闇を根絶やしにする。

『まだよ、まだ私は……』

……彼女は、りっくんが大好きなんだろう。

だから、此処まで必死になれる。

でも、私には勝てない。

其の人を想う気持ちなら、負けない。

私は爾来様を護りたい、幸せになってもらいたい。

『……りっくんをお願い。

私は、りっくんを護れないし、幸せにも出来ない。

貴女が護って、幸せにしてあげて。』

彼女の拳が目前間近で止まった。

『……私に出来るかな?』

どんな想いか読み取れない声色でそう唱えた。

掛ける言葉が此以上、喉から出てこなくて、私は何も言わずに頷いた。

『早くギラテクトを。

時間が無いよ。』

キャルナスさんは解ったと言うと、呪文の詠唱を始めた。

次第に周りの三人、鎖葉斗君、キャルナスさん、新人さんから、褐色の光が溢れ出た。

此がギラテクト。

ギラテクトが私の内へと入って行く。

不思議と何も感じない。

体が空っぽになって、宙にふわふわと浮かび上がった様な気分。
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