星屑
そう、突然に手首を掴まれ、びくりと肩を上げた。


静かすぎる薄暗い廊下に、ひんやりとした空気が重い。


視線を辿るように恐る恐る勇介を見上げると、彼はやっぱり男の顔をしてて、またあたしは目を逸らした。


さっきの人前での馬鹿っぽい顔とは一転して、相変わらず、まるで別人のようだと思う。



「マジ、ひとりで帰んの危ないっつってんじゃん。」


「…だったら何?」


「奈々、危機感なさすぎ。」


その瞬間、掴まれたままだった腕を強く引かれ、驚いてバランスを崩した時にはもう遅かった。


あたしの顔と数センチの距離にある、勇介の顔。


触れそうで触れない距離にある唇よりずっと冷たい瞳に、身を強張らせた。



「ほーら、危ないっしょ?」


瞬間、ふわりと離れた体。


何をされるのかと思って身構えていたが、勇介は何事もなかったかのように柔らかく笑う。



「奈々ちゃんは女で、男の力には敵わないんだから。
だから危ないって言ってんだけど、伝わった?」


十分に伝わったよ。


アンタも男で、だから一番危ないってことがね。



「…わかったわよ。」


「よし、オッケイ。
んじゃあ一緒に帰ろうね。」


満足げな顔の勇介と、肩を落とすあたし。


この人は、少しも自分の立場というものを理解していないらしい。

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