ひだまり
図書館は二階の廊下の隅にあり、向かい側の隅には職員室があった。
ちょうど、その中間から二年生の教室へと続く廊下がのびていた。
その曲がり角には、<相談室>という部屋があった。

勉強に身が入らないのは、ちらちらと<相談室>ばかりみていたからである。

「そろそろかえろうか」
近くで勉強していた隣のクラスの子達が、帰り支度をはじめた。
時計をみるともう七時だ。

東北の田舎であるここは、秋というと五時には真っ暗である。街頭もほとんどないので
放課後の学校での勉強は七時がタイムリミットだ。

だが私は皆が帰るのを待っていた。
<相談室>に変化は無いか・・・見ていたかった。

「おーい、倉沢。そろそろ帰れ~」
そう言って現れたのは担任の尾関だ。
尾関先生は、30代前半の小太りな男の先生で、国語の先生だった。
顔に似合わず、字がすごくきれいで、温かみのある熱心な先生だ。
職員室からまっすぐ50メートルくらいを歩いてきただけなのに
太っているせいか、
ハァハァと少し息切れしている。

「今帰るところです。でも先生ちょっとまって」
「なんだ?」

「机がバラバラになっているので、少し整頓してから帰ります」
「そうか、少しみたいだからじゃあ、倉沢に頼んだぞ、じゃ、気をつけてかえれよ」
「はい、さようなら。」

机の整頓なんて、考えてもいなかったが、少しでもここに残りたくて
こんなことを言ってしまった。

机の整頓も終わったが、未だ<相談室>に動きは無い。

「きょうはダメか・・・」
帰り支度をして図書室を後にした。
一階の下足箱に行くには、相談室のすぐ手前の階段を降りなくてはならない。

ため息をしながら階段を降りようとしたとき、
「ガチャ」
相談室の扉が開いた。
わたしの心臓は大きく鼓動した。

「お!倉沢、今帰りか、遅いな」
そう言いながら出てきたのは、佐野先生だった。

< 3 / 10 >

この作品をシェア

pagetop