月夜の送り舟
 
「カ、カ、カッパ・・」

明るい時間にカッパが姿を現すなんて聞いたことがありません。
しかも、あいつとサイは目が合ったのです。

あいつはニヤリと笑うとどんどん近づいてきます。
サイの背筋は凍りつきました。
逃げようと気ばかり焦ります。
でも、どうにもこうにも足が動かないのです。
その上、あろうことか尻もちまでついていました。

サイは恐怖で眼をカッと見開き、カッパを睨みつけます。
そいつはすでに河岸までせまってきています。

「あぅう、あぅう」
声を上げようにも咽は萎縮し、立ち上がることさえできません。
サイはうしろ手に後ずさりするより他になかったのです。

そいつは目の前に一気に近づいてきました。
つかまるまいとサイは手を大きく振って身を守ります。

しかし、そいつはサイの足に手をかけたのでした。


 









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