鬼憑き
五章
医務室に連れていかれて四日。秀樹は討伐を再開していたが、武人はまだベッドから動けないでいた。ようやく意識を取り戻したことを告げられた秀樹は、まだ所々小さな傷の残る体で武人の病室まで走った。



「武人!」

武人がドアのほうを向くと、軽く息を切らしている秀樹が立っていた。

「はは、お前が息切らすとか珍しいじゃん」

「・・急いできてやったんだよ」

「急ぎすぎだっての」

軽く笑いを浮かべる武人のベッドの近くまで歩き、そばにあった簡易椅子に腰かけた秀樹は表情を暗くしたままだった。それを知ってか知らずか、武人は口を開いた。

「命に別状はないってよ。毒素が抜けきるまで・・まぁ、一か月くらいらしいけど、その間は絶対安静だとさ」

「そうか・・・」

「暇だよな~。お前も任務でいないし」

武人がため息交じりに言うと視線を外してしまった秀樹。意を決して武人に向きなおったが、顔の前に突き出された人差し指が秀樹を遮った。

「お前のことだから、どうせ今の状況謝ろうとか思ってんだろ?」

図星を突かれたのか、思わず息をのんだ秀樹に向って、武人は小さくため息をついた。

「別に怒っちゃねぇし、お前に謝ってほしいとも思ってねぇ。今回は俺の油断が招いた結果だろ」

「それとこれとは、」

「一緒だ馬鹿。それに謝るのは、違うことについてじゃねぇのか?」

からかうような口調とともに紡がれた、いつもの武人の笑顔。それに安心したのか、秀樹の表情がここ数日で初めてゆるんだ。

「悪かったな、隠してて」

「仕方ねぇ、今回だけは許してやるよ」

そこにはいつもの、今まで通りの二人がいるだけだった。

「にしても傷だらけだな。見てて痛ぇし」

眉をしかめる武人に対して、秀樹はやはり軟らかい表情を浮かべたまま。

「どうせこの程度明日にはなくなる。この前のももう治ったしな」

「そのスピード羨ましいな。・・まぁ、俺がいないからって無茶すんなよ」

「お前に言われたくない」

和やかだった雰囲気は、微かに響いているバイブ音にかき消される。慣れた手つきで、しかしどこか気だるそうに受け答えをしていた秀樹は、舌打ちとともに電話を切った。

「気が向いたらまた来いよ~」

「・・そのうちな」

武人との軽い挨拶を交わして病室を後にする秀樹。もうその表情には厳しさしか残っていないようだった。
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