ジャス
「ははは、それはそうと彩音、あんた生まれはどこだ? 」
不意にジャスが訊ねた。
「え? …私は、江戸の生まれです…」
彩音が答える。どこかぎこちなくも感じた。
ジャスは何か思うところがあるのか、ジッと彩音を見据える。
暫し会話が途切れた。
「…彩音の生家は呉服商を営んでいたそうだ」
堪らず新太郎が、合いの手を差し伸べた。
ジャスは視線をそっちに向ける。
「その生家が押し込み強盗に襲われ、彩音を除く一家全員殺されたそうなんだ」
悔しさを押し殺す新太郎。
「…そうか…すまなかった、余計な詮索をした」
ジャスは静かに言った。
彩音は頭を横に振る。
「それで京の親族を訪ね上京して、今はその親族の世話になっているんだ」
新太郎が笑った。無理矢理笑顔を作っている。そう感じた。
「彩音は今は幸せです。新太郎や正義さまに出会えたし」
彩音が微笑む。
「ははっ、まさか正義どのに惚れたか? 」
新太郎が、まるで幼子の様にからかった。
「もう、新太郎ったら」
彩音の顔が紅潮する。
「あっははは! 」
堪らず新太郎が吹き出した。
『まあ…心配無いか。』ジャスは和やかに見守っていた。
こうして三人の関係は続いた。
新太郎と彩音は夫婦の様に、ジャスはその二人の兄の様に。