恋時雨~恋、ときどき、涙~
わたしは、こくりと頷いた。


〈友達と、出掛ける〉


へえ、と言い、お父さんが卵焼きをひとつ摘まもうとしたので、わたしはその手を叩いた。


〈食べるなら、こっちを食べて〉


わたしは、余っていたいびつな形の卵焼きを、お父さんに渡した。


「どうせ、お父さんは余り物処理係だよ」


その様子を見ていたのか、お母さんが笑いながら間に入ってきた。


「お父さんとゆっくりしてていいの? もう、8時になるよ」


お弁当作りを始めたのは6時30分だったのに、壁時計の針はもう8時を指そうとしている。


わたしは大急ぎでお弁当箱を包み、用意していたカゴバッグに保冷材と一緒に詰め込んだ。


今日は、健ちゃんと動物園に行く約束をしているのだ。


わたしは、キッチンの片付けをお母さんに頼んで、慌てて部屋に戻った。


顔に化粧水を染み込ませ、下地を塗り、ファンデーションを伸ばして、パウダーをはたく。


お母さん譲りのどんぐりの形の目にアイラインを入れて、お父さん譲りのお世辞にも長いとは言えない睫毛にマスカラを重ねた。





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