恋時雨~恋、ときどき、涙~
ソフトボールくらいの大きさの、おだんごだ。


鏡の中のお母さんに〈ありがとう〉と手話をすると、お母さんはにっこり微笑んで、鏡の中のわたしに言った。


「真央は、おだんご頭が1番似合う」


わたしも、このヘアースタイルがいちばん好きだ。


その時、突然、まだパジャマ姿のお父さんが入ってきて、わたしを抱き締めた。


わたしは、お父さんの胸を押し返して訊いた。


〈何? どうしたの?〉


お父さんは目をうるうるさせて、両手を動かした。


「デートっていうのは、本当なのか? そんなにおめかしして」


お父さんの背後で、お母さんが「ごめん」とジェスチャーしている。


わたしは、お父さんに微笑んだ。


〈違うよ。友達。彼氏じゃないよ〉


わたしの手話を見て、お父さんはぱっと笑顔になった。


なーんだ、そうかそうか、と柄にもないスキップをしながら、部屋を出て行った。


わたしは、お母さんを睨んだ。





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