恋時雨~恋、ときどき、涙~
【わたしも耳が長かったら、音がきこえるかもしれない】


わたしはかなり本気で、真面目な顔をした。


でも、健ちゃんはあっけらかんとして笑った。


「単純だんけ。バカだな」


【ひどい まじめに言ってるのに】


そう書いたメモ帳をぶっきらぼうにテーブルの上に投げ出して、わたしは健ちゃんを睨んだ。


「うさぎは、しゃべれねんけな。日本語も、知らない。たぶん。手話もできねんけ」


わたしは、妙に納得した。


なんだ。


そっか。


それなら、今のわたしよりだいぶ不便だ。


わたしは、メモ帳にボールペンを走らせた。


【やっぱり 今のままでいい】


健ちゃんは、喉の奥が見えるくらい大きな口でわははははと笑った。


「だろ? それに、真央の耳は、心の中にちゃんとあるんけ」


わたしは、ワンピースの上からそっと心臓を押さえた。


そして、首を振った。


ううん。


ない。


わたしの心の中に、耳はないと思う。




< 125 / 1,091 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop