恋時雨~恋、ときどき、涙~
わたしは、健ちゃんを好きだったのだ。


「帰ろう」


そう言って、健ちゃんがわたしの手を握った。


わたしの頬に、全身の熱が一気に集まった。


「来週の日曜日も、あけといて。その次も、そのまた次も」


健ちゃんが、無邪気に笑った。


「また、一緒にどっか行こう」


わたしは、健ちゃんの手を握り返して、頷いた。


ずっとこうして、いつまでも健ちゃんと手を繋いでいたいと思った。


離したくない、とも。


別に、わがままを言うつもりはない。


両想いになりたい、とか、付き合いたい、だとか。


無理なことは、じゅうぶん、分かっているから。


ただ、ずっと、一緒に居たいと思った。


恋人が無理なら、友達のままでいい。


だから、こうして、笑っていたい。


そう、思った。


でも、それすら叶わなかった。


せっかく、距離が縮んだと思っていたのに。


輝き始めたばかりの目の前が、暗く閉ざされようとしていた事に、わたしはまるで気付いていなかった。


健ちゃんの過去を知ってしまう日が間近に迫っていたなんて、わたしは知らなかった。






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