恋時雨~恋、ときどき、涙~
「だって、真央は、ぼくの大切な幼馴染みだから」


順也の手話は不思議なほど素直に、わたしの心にすとんと落ちた。


「でも、真央にも、果江さんと同じだけチャンスはあるんだから。もう一度、健太さんと話してみるべきだよ」


わたしは、水を払う犬のように首を振った。


昨日の健ちゃんの取り乱す姿を目の当たりにして、わたしは諦めることを決めた。


話したって、伝えたって、どうにもならないことは、どうにもならないのだ。


順也がベッドから身体を起こした。


車椅子に移乗したいという。


わたしは、順也に肩をかした。


最近、順也は車椅子への移乗が上手になった。


車椅子に座り、片足ずつ両手でそっと持ち上げ、フットレストに乗せる。


順也は、わたしに、近くのパイプ椅子に座るように指示した。


「でもね、真央。ぼくは、果江さんの気持ちも分かる気がするんだ」


わたしは、順也を睨んだ。


わたしには、全然、分からない。


果江さんの気持ちなんて、分からない。


本当に好きなら、絶対に、わざと自分から離れたりしない。





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