恋時雨~恋、ときどき、涙~
定期券を鞄に入れて振り向くと、もう、幸の姿は無かった。


春風のような女の子だと思った。











昼間の電車内は、のどかだから好きだ。


がらんとしていて、横に揺れる車両はゆりかごみたいだ。


ジェットコースターのように俊敏に流れる景色を見つめながら、わたしは少し前向きになっている自分に気付いた。


でも、ただ前向きになった気持ちに酔っていただけなのかもしれない。


わたしに超能力があったら、この先に待ち受けている事を、止めることができていたのだろうか。


まだ残暑が混じる秋の始まりは優し過ぎて、わたしは気付くことすらできていなかったのだ。


わたしと健ちゃんの再会が、すぐそこまで来ていたことに。


そして、それは、ただの始まりに過ぎなかったことに。


昼下がりの陽光に打たれながら、流れる景色にわたしは願った。


いつか、全てうまくいく日が来ますように。









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