恋時雨~恋、ときどき、涙~
わたしは、健ちゃんの広い背中に両手を回してしがみついた。


離れたくない。


健ちゃんの手が、わたしの肩を2回たたいた。


顔を上げると、健ちゃんが笑いながら涙を拭いてくれた。


「そんなにしがみつかれたら、苦しんけ」


わははは、と健ちゃんは大きな口で笑った。


〈ごめん〉


謝るわたしに、健ちゃんがデコピンをする。


「わ、た、る。言ったんだってな」


〈なにを?〉


「おれが、真央に、果江を重ねて見てるって」


小雨が降る、夏の終わりの夕方。


喫茶店での出来事を思い出して、胸が苦しくなった。


わたしが浅く頷くと、健ちゃんが頭を掻いた。


「そっか……でもな、それはまっかっかーの嘘だんけ。確かに、果江の事は好きだった」


へたくそな手話と、おまけの唇を読んで、わたしの心臓が締め付けられた。


やっぱり、忘れられないくらい、果江さんを好きだったのだと思う。


でも、それは仕方のないことだ。


「でも、もう、過去だんけ。今は真央のこと見てる。それは、信じてくれる?」


分からない。


だって、わたしは健ちゃんじゃないから。


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