恋時雨~恋、ときどき、涙~
2時限目の食品衛生学の講義が終わり、昼休みになった時、隣で幸が慌ただしくなった。


ブランドのショルダーバッグに、ルーズリーフとペンケースを詰め込んでいる。


そして、バッグを肩に掛けて、幸は立ち上がった。


「帰るわ」


〈帰る? どうして?〉


「これから、彼氏のお母さんと会うことになってん。話がある、言われとんねん」


〈そうなんだ〉


残念。


わたしが肩をすくめると、幸は申し訳なさそうに両手を合わせた。


「ごめんな。大事な話らしいねや。4時限目には、菜摘も来る言うてたから」


菜摘は眼科の予約があるから、と朝からまだ来ていない。


〈分かった。気を付けてね〉


わたしがにっこり微笑むと、幸は「ほなな」と言って、無邪気に教室を出て行った。


わたしはロッカールームに行き、教科書をしまい、鞄を抱えて教室に戻った。


しょうがない。


今日は、1人でお昼か。


外は肌寒いし、学食は人の目が気になる。


わたしは、教室のいちばん後ろの窓辺の席でお弁当を広げた。


誰もいない教室に、秋の淡い木漏れ日が射し込んでくる。


左横にはスチームのストーブがあって、ふわふわと温かい。


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