恋時雨~恋、ときどき、涙~
お弁当箱の蓋を開けた時、後ろのドアから誰かが入ってきた姿が、横目に飛び込んできた。


わたしの知っている人だった。


調理実習で、同じ班の男子。


中島 旬(かなじま しゅん)くんだった。


中島くんと目が合った。


めずらしい。


ひとりだ。


男子は人数が少ないだけに、いつも6人で行動しているのに。


何か、忘れ物でもしたのだろうか。


誰も居ない教室を、中島くんはきょろきょろと見渡していた。


中島くんは背が高い。


クラスでいちばんだ。


193センチもあるんだって、と、いつだったか静奈が教えてくれた。


小学校、中学校、高校、とバレーボール部でエースアタッカーをしていたらしい。


菜摘と同じ中学出身らしく、そう、きいている。


男子の中でも、あまり派手じゃないと思う。


みんな、金髪や茶髪にしているのに、中島くんは黒い短髪で、無口で無愛想だ。


でも、調理実習の時はみとれてしまう。


魚をさばかせたら、天下一品なのだ。


なにせ、魚屋の息子なのだそうだ。


もう一度、中島くんと目が合った。


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