恋時雨~恋、ときどき、涙~
愛しそうに順也を目で追う静奈の顔を、わたしは手で扇いだ。


〈静奈?〉


「あ……うん」


静奈はゆっくりと頷いて、車から下りてガラス張りの前まで歩いて行った。


わたしと健ちゃんは、車に給油してもらいながら、フロントガラス越しに2人を見つめた。


ガラス張りのすぐそこで、順也がキーボードを叩いている。


静奈が、外からガラスを指で突ついた。


順也が弾かれたように顔を上げて、目を大きく開いた。


わたしも、つられて息を呑んでしまった。


なんで、と順也の唇が動いているのが見える。


静奈が微笑んだ。


「まだ、間に合う?」


静奈の手話は、いつ見てもきれいだ。


順也がぽかんとしている。


静奈はガラス越しに手話を続けた。


「まだ、返事、間に合う?」


順也は目頭を押さえて、うつ向いてしまった。


粉雪を交えた潮風が、静奈の髪の毛をなびかせている。


顔を上げた順也の目が、真っ赤に潤んでいた。


うさぎ、みたいだ。


透明なガラス越しに、順也の大きな両手が緊張気味に動く。


「ぼくは、障害者だよ。歩けない」


順也の右手のリングが、きらきらと輝いていた。


静奈の笑顔に、ひと粒の涙が伝い落ちた。



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