恋時雨~恋、ときどき、涙~
「今日、楽しかった? 健太さんの、誕生日だったでしょ」


〈楽しくなかった〉


わたしは苦笑いをして、肩をすくめた。


〈ケンカ、した〉


ふと、思い出して、胸が苦しくなった。


わたし、どうして、あんなことを言ってしまったんだろう。


心臓が痛い。


わたしは、胸を押さえた。


順也が、右手の人差し指を左右に振った。


「どうしたの?」


〈思い出したら、痛い。心臓が、痛い〉


すると、順也は相変わらずの優しい手話をした。


「それは、真央の心が泣いてるからだよ」


どんなふうに痛い? 、と順也が訊いてきた。


まるで、病院の先生みたいだ。


「症状を、教えてみて」


〈例えば、麻酔なしで、手術を受けている感じ〉


わたしの手話を見て、順也が可笑しそうに吹き出した。


「うわあ……それは、かなり重症だね。痛そうだ」


そう手話をしながら、順也はにこにこ笑った。


夕暮れの穏やかに凪いだ波のような、暖かい笑顔だ。


「でも、その痛みは、真央の心が正常な証拠だよ」


〈正常?〉


わたしが首を傾げてみせると、順也はしっかりと頷いた。


「健太さんを、ちゃんと好きな証拠だね」


好きだ。


わたしは、健ちゃんを大好きだ。


でも、よく分からない。


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