恋時雨~恋、ときどき、涙~
「真央、元気でな」


さっきまでしゃんとしていたはずのお父さんが、猫背になって情けない顔をしていた。


わたしに、迷っている時間はなかった。


慌てて、精一杯の気持ちを両手に託した。


〈お父さん、お母さん。3年後、笑って再会しよう。約束。それで、また、あの家で〉


一緒に暮らそう、そういいかけた時、新幹線がぐんと動き出した。


その時だった。


お母さんが、窓ガラスに張り付いて、泣きながら手話をした。


「待っていても、幸せは来ない。自分で探さないと見付からない。今の自分を越えて、つかむもの」


今から、真央の未来は始まる。


その手話を冬空の下のホームに残して、お父さんとお母さんはこの街を去った。


わたしは涙を堪えて、空を見上げた。


大きく吐いた息が白い蒸気となり、空に高くのぼっていく。


2月中旬。


凍てつく寒さの中、優しい粉雪が降った朝だった。


まだ、朝の空におぼろ月がぼんやりと浮かんでいた。


健ちゃんに抱きすくめられて、ようやく泣くことができた。


大きな腕の中で、わたしは思い返していた。



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