恋時雨~恋、ときどき、涙~
「果江の右太ももには、大きな傷があるんけ」


そう手話をして、健ちゃんは自分の右の太ももを人差し指で、約20センチほどなぞった。


「これくらい、大きな傷だんけ」


〈そんなに大きな傷……どうして?〉


わたしが訊くと、健ちゃんはうんとひとつ頷いて、また両手を動かした。


「高校生の時、文化祭の準備中に、壁に立て掛けてた分厚いベニヤ板が、亘に倒れてきたんけ」


わたしは頷きながら、健ちゃんの両手を見つめた。


「そのベニヤ板からは、太い釘が突き出てて。横に居た果江が亘をかばって、飛び込んで行ったんけな。2人とも、板の下敷きになったんけ」


わたしはとっさに肩をすくめた。


痛そうだと、想像したからだ。


「ベニヤ板、けっこう重くて。おれたちみんなで起こした。亘は右肩の打撲で済んだけど、果江が……」


〈果江さんは?〉


わたしは息を呑み込んだ。


「果江の右の太ももに釘が刺さって。それに、おれたちが力ずくでベニヤ板を起こしたもんだから、切れてしまったんけ。20センチくらい。深く」


できることなら、目を伏せてしまいたかった。


想像しただけで、背中にぞくりとしたものが走った。


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