恋時雨~恋、ときどき、涙~
部屋のインターホンを鳴らすとドアが開いて、健ちゃんが顔を覗かせた。


優しい瞳と目が合った。


「お帰り。真央。今日は遅かったんけなあ」


健ちゃんの笑顔を見て、ようやく、わたしはほっとした。


〈ただいま〉


と笑顔で返すと、健ちゃんが小首を傾げながら、わたしの足元に手を伸ばして何かを拾った。


「何だんけ、これ」


と健ちゃんはやっぱり首を傾げながら、それをじっと見つめた。


わたしの手の中でもうすっかり萎れて変色した、桜の花びらだった。


〈健ちゃん〉


わたしが顔を扇ぐと、弾かれたように健ちゃんは顔を上げた。


〈桜の、花びら〉


「桜? もう咲いたのか。今年は早いな。春だんけ」


そう言って、健ちゃんはわはははと笑いながら、わたしの髪の毛に手を伸ばした。


「何だ何だ。桜の花びらに、草に」


健ちゃんの手には深緑色の草があった。


わたしはハッとした。


幸ともめた時だ。


あの時、わたしの髪の毛に絡み付いたものだろう。


「木登りでもしてきたのか?」


健ちゃんの問いに、わたしは首を横に振った。


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