恋時雨~恋、ときどき、涙~
「本当に強いっていうのは、ちゃんと泣ける人のことを言うんけ。泣いたあとに、また笑える人を言うんけな」


生まれつき本当に強い人間なんて、どこにも居ねんけ。


と、健ちゃんは少し寂しそうに笑った。


そして、勢い良く立ち上がり、わたしの腕を引っ張り、立たせた。


「ぐずぐずしてる場合じゃねんけ! 行こう」


わたしは首を傾げた。


〈行こう、って……どこに?〉


健ちゃんの人差し指が、わたしを指した。


「真央の、大切な友達に、いま伝えられること、伝えに行くんけ」


わたしの腕を引いてずんずん玄関へ歩く健ちゃんの手を振り解いた。


「どうした?」


〈でも! 何を、どう伝えたらいいのか、分からない〉


苦しい気持ちを必死に隠そうと頑張っている幸に、頑張れ、なんてわたしには言えない。


頑張っている人に、これ以上何を頑張れと言うのだろう。


「真央」


と健ちゃんが、手話ではなく大きな口でゆっくり言った。


「大切なんだろ? 大切な友達に、これだけは伝えとかなきゃってことあるだろ?」


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