恋時雨~恋、ときどき、涙~
先日、順也と静奈と、花見に来た公園だった。


夜の公園は、とても明るかった。


ライトアップされた満開の桜が、白く輝いてみえる。


ぼんやりと乳白色の光を放ついちばん大きな桜の木の下で、健ちゃんはわたしの手を離した。


「真央」


うつむきかけたわたしの顔を、健ちゃんが扇ぐ。


顔を上げると、健ちゃんは苦笑いしていた。


「ずっと、うつむいてばっかだんけ」


伝えてくれないと、何も分からねんけ。


健ちゃんの両手が、遠慮がちに動く。


健ちゃんの手が、すうっと伸びてくる。


だめ。


わたしは無意識のうちに、その手を叩いた。


あ……。


大好きな手なのに。


「真央……」


健ちゃんが悲しい顔をした。


なぜ、大好きなはずの手を叩いてしまったのか、自分でも良く分からなかった。


夜風に舞い散る桜の木の下でうつむいた健ちゃんの顔を扇いだ。


〈健ちゃん〉


「真央」


わたしの手話を遮り、健ちゃんは両手を動かした。


「馴れって、怖いな」


なれ?


わたしは首を傾げた。


だんけ、と健ちゃんが頷く。


「一緒に暮らしてから、朝起きると、アパートに帰ると、手を伸ばせばそこに、真央が居る。それが当たり前になってたから」


真央が隣に居ることに、馴れてしまっていたから。


「一週間前。真央が、友達のアパートに泊まった夜があっただろ?」


幸のことだ。


頷いて、健ちゃんの両手を見る。


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