恋時雨~恋、ときどき、涙~

五月雨

この街に、新緑の季節が訪れた。


街路樹を見上げると、葉と葉の隙間からきめ細かな光が降り注いでくる。


木漏れ日が眩しい。


5月。


爽やかな初夏の風が、木の葉をさらさらと揺らしていた。


桜の木の下で約束を結んでから、わたしはシンデレラになったような、夢見心地の日々を送っていた。


その日は朝からずっと、雨だった。


5月も半ばにさしかかった休日の朝、わたしはおもしろくなかった。


ここ2、3日の健ちゃんの様子が明らかにへんだからだ。


おかしい。


朝食も、夕食も、お弁当も。


健ちゃんはご飯を残す。


今日だってそうだ。


ご飯もお味噌汁も、出汁巻き卵も。


まだ半分以上残っているのに。


「もう腹いっぱいになったんけ」


そう言って、下腹をさすってすぐに横になる。


牛みたい。


いつもおかわりするくせに。


一度、病院で看てもらった方がいいんじゃないかと言っても、健ちゃんは頷かない。


「単なる食い過ぎだんけ」


そればかり。


食い過ぎって……。


ご飯、残すくせに。


仕方なく食器の片付けをしていると、天井のランプがくるくる回って点滅した。


誰か来たらしい。


健ちゃんが出てくれると思っていたけれど、待てど暮らせど点滅が止まらない。


あれ?


リビングを覗くと、そこに横になっていたはずの健ちゃんの姿はなかった。


どこ行ったんだろう。



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