恋時雨~恋、ときどき、涙~
これは大問題だ。


大食いの健ちゃんがご飯を残すなんて、大事件なのだ。


この洗い物が済んだら、様子を見に行ってみよう。


そう思った矢先だった。


突然、強い力で服ごと背中から体をを引っ張られた。


手にしていた茶碗が落ちて、割れて、床に破片が散らばる。


青い、健ちゃんの茶碗。


なに?


振り向くと、青ざめた静奈がさっきよりも切羽詰まった様子で立っていた。


大きな口でぱくぱく、何かを言っている。


えっ?


何?


わからない……。


無意識のうちに、自分の表情が歪んでいくのか分かる。


静奈は相当あせっているのだろう。


いつも、わたしが読みやすいようにゆっくり話してくれるけど。


冷静な手話をしてくれるけれど。


そんな静奈はどこにも居なかった。


「来て!」


静奈が、わたしの腕を掴んで思いっきり引っ張る。


引きずられて連れて行かれたのは、トイレだった。


ドアが半分開いていた。


ドアの隙間から見えたのは、グレーのスウェットだった。


嘘……。



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