恋時雨~恋、ときどき、涙~
わたしは肩をすくめた。


〈ごめん〉


「ぼくにできることは、もう何もないのかな」


突然、順也の両手が震えだした。


順也の表情がみるみるうちに変わった。


「健太さんはたぶん、頷いてくれないよ。真央が考えている以上に、健太さんは真央を大切に想ってるから」


それでも、東京へ行くの?


それでも、健太さんと別れなきゃいけないの?


順也が両手を震わせながら、涙をこぼした。


「他に方法はないの?」


わたしは頷いた。


〈別れなきゃ、わたしはまた迷惑をかけてしまう。東京へ行く。それが、いちばんいい方法〉


順也の手から、便せんが落ちる。


「ぼくを置いて、しーを置いて、それでも……行くって言うの?」


わたしは、頷いた。


順也と静奈と離れるのは嫌だ。


でも、そうでもしなきゃ。


それくらいの覚悟がなければ、わたしはこの恋に終止符を打てそうもないから。


「しー、泣くよ。絶対。しーは、真央が大好きだからね」


どうしよう、そう言って、順也は一気に涙を溢れさせた。


「しーに何て説明すればいいの? ぼくは、しーに、何て言えばいいんだよ」


ごめんね、順也。


ごめんなさい、静奈。


わたしは、順也の両手を握った。


絶対に泣かなかった。


それくらい、わたしの決意は固く、揺るぐことはなかった。


この街に居れば、わたしの決意は簡単に崩れてしまうだろう。


健ちゃんと離れたくなくなってしまうに決まっている。


別れることができなくなる。



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