恋時雨~恋、ときどき、涙~
笑うわたしを疑いもせず、健ちゃんは「なーんだ」と安心しきった顔で出て行った。


本当は、荷造りの他の何でもないくせに。


嘘なんかついたって、どうしようもないのに。


健ちゃんが退院して戻った翌日の夕方、わたしはお母さんにラインメッセージを送っていた。


できることなら、短大をやめたい。


やめて、今すぐにでも東京へ行きたい。


お父さんとお母さんと、一緒に暮らしたい。


そう思って決意していることを、文字にして送信した。


なぜ急にそんなことをラインしてきたのか、お母さんは何も聞いてこなかった。


ひとつも。


真央が本気でそう考えているのなら、一度、東京へ来なさい。


話はそれからゆっくりしよう。


それが、お母さんからの返事だった。


ラインでは話し合いにならないことを、お母さんはよく分かっているかならのだろう。


そして、わたしに何かが起きたことを、お母さんは感じとってしまったのかもしれない。


大好きな順也と静奈と、離れること。


大切なひとである健ちゃんと離れること。


必死に勉強してようやく入学できた短大を、辞めたいと言い出したこと。


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