恋時雨~恋、ときどき、涙~






セント・マリン・チャペル。


教会はその名の通り、美岬海岸から数百メートル先に見える灯台がある、小高い丘の上にあった。


わたしがこの町を出た3年前の秋の暮れに完成したばかりだと、幸が教えてくれた。


まだ新しい、煌びやかで真っ白な建物だった。


なつかしい。


美岬海岸はあの頃と変わらず広くて、大きくて、6月の陽射しを受ける水面がキラキラ輝き眩しい。


まるで両手を広げたように寛大な海原を見つめて、わたしは胸いっぱいに潮風を吸い込んだ。


やっぱり、東京とは違う。


高層ビルは見当たらないし、悪く言えば、何も無い。


ここにはゆったりとした時間が、流れている。


「ほら、あそこやで。あの、建物が、今日泊まるペンションやで」


小高い丘の麓にある、クラシックな雰囲気たっぷりの平屋の建物を指さして、


「行こか」


と幸が微笑んだ。


セントマリンチャペルの系列のペンションらしい。


駅からバスに乗り、ペンションに到着したのは正午を回った頃で、わたしたちはチェックインしたあと軽く昼食を済ませ、パーティードレスに着替えることにした。


お父さんが「真央は水色が似合うから」と2時間も悩んで選んでくれた、シンプルなデザインのパーティードレス。


肩に、ボレロを羽織った。


長い髪の毛はひとつにまとめて、大きな大きなおだんごさんにした。


おだんご頭にしたのは、本当に久しぶりの事で少しくすぐったい気分になる。


「よう似合うとるで」


と幸が話しかけてきた。


〈ありがとう。幸も、きれい〉


淡い紫色のパーティードレス。


幸は、スミレのようだ。


「おおきに」


ハンドバッグに、健ちゃんからのメッセージカードを入れた時、幸が肩を叩いてきた。
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