恋時雨~恋、ときどき、涙~
〈今日、来てるの?〉


こくりと頷いた静奈が、きょろきょろと向こうの列を見渡す。


「あれ? おかしいなあ」


難しい顔をして、静奈は肩をすくめた。


「さっき、見かけたんだけど。ほら、あそこ。あそこ辺りに居たはずなんだけど」


静奈の指が差す方をおそるおそる見たけれど、それらしき姿はなかった。


わたしは、なぜか、ほっと胸を撫でおろしていた。


心の準備をまったくしていなかったというわけではない。


けれど、いざとなってみると、どんな顔で会えばいいのか分からなくなった。


〈いい。やっぱり、会わない方が〉


と弱気な事を言い出したわたしの手を掴んだのは、幸だった。


「何言うてんねん。もう、逃げたりせんて言うてたやんか」


肩をすくめてうつむいたわたしの顔を、静奈が扇ぐ。


顔を上げると、静奈はバックに映える青空のように微笑んでいた。


「はい、これ」


……え?


わたしは瞬きを繰り返した。


天使のような微笑みを浮かべる静奈がわたしに持たせた物は、ブーケだった。


慌てて返そうとするわたしに、静奈は首を振る。


「今度は、真央の番だよ。だから、幸せのバトンタッチ」


次は真央が幸せになるの、そう言って、静奈はくるりと回れ右をして、


「良かった、夢だったの。いちばん大切な親友に、ブーケ渡すの」


にっこり笑ったあと、順也のところへ走って行った。


真っ白なウエディングドレスの袂を、バルーンのようにふわふわと弾ませて。


ウエディングドレスと同じ純白色の花々が、わたしの両手から今にもこぼれてしまいそうだ。


濃い白色の、プルメリア。


純白のミニバラ。


真っ白な花の隙間にアクセントを添えていたのは、バージンロードと同じロイヤルブルーのブルースター。
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