恋時雨~恋、ときどき、涙~
「本当に重要なのは、時間じゃない。お互いの、気持ち、だと思うよ」


おかえり。


おかえり、うさぎさん。


君の帰りを、ずっと、待ってたよ。


そう言って、にっこり微笑んだあと、亘さんは颯爽とした足取りで、西日が射しこむ礼拝堂を出て行った。


涙があふれて、止まらない。


わたしは泣きながら、うさぎの手話をした。


足元に、何かがぶつかる感触があった。


見ると、メモ帳が落ちてはらはらと数枚めくれて、閉じた。


それを拾いあげる。


涙が頬を伝い、メモ帳のおもて表紙に落ちる。


健ちゃんの、あほう。


あほう。


悔しくて、悔しくて、メモ帳を持つ手がふるふる震えた。


おそるおそる、ページをめくる。


亘さんの字が、わたしを羽交い絞めにした。


背中に、鋭い矢が突き刺さる。


ばか。


健ちゃんの、おおばかやろう。


泣いても泣いても、涙は枯れなかった。


わたしの想いと同じで、あふれてあふれて、どうにもならなかった。


亘さんが書いた文字を指先でなぞって、わたしは、エナメル質が砕けてしまいそうなほどの力で奥歯を噛んだ。


ライオンになりたくせに。


よわむし。


息絶えてしまうかもしれない。


そう不安になるほど、わたしは、泣き続けた。


【―――】


亘さんが書いた文字が、落ちた涙で滲んだ。

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