恋時雨~恋、ときどき、涙~
その、一瞬だった。


初めて見かける男の子と、目が合ったのだ。


お隣さんの家に同い年の男の子がいる事は、お母さんから聞いていたから分かっていたけれど、顔を合わせたのはその時が初めてだった。


隣の家の2階の窓から、彼はわたしをじっと見下ろしていた。


さらさらの黒髪に、くるくる輝く大粒の目。


それが、順也だった。


「ねえ!」


と大きな口を開けて何か話しかけてくる順也にびっくりして、わたしは急いで窓を閉めた。


窓を閉めて、キッチンで晩御飯の支度をしているお母さんに抱きついた。


だって、ばかにされて、いじめられると思ったから。


だって、わたしは近所の同い年の子たちからいつもばかにされていたし、後ろ指を指されている事くらい、知っていたから。


〈あの時、順也にもばかにされると思った〉


わたしが肩をすくめて笑うと、


「ひどいな。ぼくは、そんな事しない。それに、びっくりしたんだ」


あの時、と順也が懐かしそうに笑った。


〈びっくり? なぜ?〉


「だって、真央が、思っていた以上に、本当に可愛かったから」


〈うそばっかり〉


「嘘じゃないよ。お母さんもお父さんも、可愛い子だって言っていたから、どんな子なのかと思っていたけど。本当に可愛かったから」


お世辞? 、と横目で睨むと、順也は困ったように笑って「まさか」と首を振った。


「真央を初めて見た時、お姫様かと思った」


ぼくの隣の家にはお姫様が住んでいるのか、そう思ったんだ、と順也がわたしの顔を指さして微笑んだ。


「それで、確かめてみたくなったんだ。お姫様なのに、どうしてこんな田舎町に住んでいるのか、聞いてみたくなったんだ」


だって、お姫様って、ふつう、大きなお城に住んでいるだろ、なんて順也が可笑しそうに吹き出す。


〈お姫様なわけないのに〉


順也が本当に楽しそうに笑うから、つい、わたしもつられて笑ってしまった。


「笑うなよ。本当に、そう思ったんだから」


順也がむっとして、わたしを睨んだ。


「ぼくは、純粋な少年だったんだ」


〈だけど、わたしがお姫様なはずない〉


「でも、5歳のぼくには、そう見えたんだ。仕方ないだろ」
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