恋時雨~恋、ときどき、涙~
お母さんの手話は、いつも、わたしの背中をさりげなく押してくれる。


お父さんの両手が言った。


「耳が聴こえなくても、真央にできることは、たくさんあるよ」


わたしは、しっかりと頷いた。


お父さんの手話は、わたしに、いつも固い勇気をくれる。


部屋に戻って、わたしはスマホをタップした。


暗い部屋に、小さな明かりがこぼれる。


静奈にラインしようと思い、暗い部屋で明かりも付けずに文章を打った。


でも、送ることができなくて、そのままスマホを床に投げ出した。


大切な人にどうしても言わなければいけない事があるのに、どうやって伝えたらいいのか、分からない。


おじさんの気持ちが、痛いほど理解できた。


わたしは西の窓辺から夜空を見上げた。


夜空は、瞬きしてしまうほどきれいだった。


幾千億もの星屑が夜空からこぼれ落ちて、わたしの目にまんべんなく散らばる。


星屑の欠片が、目にしみた。


窓辺に立ちすくみ、わたしは泣き続けた。


泣いていたって、どうにもならいことは分かっている。


でも、いつか、みんなが知ってしまう日が来るのだ。


順也が、下半身不随になってしまったかもしれない事を。





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