恋時雨~恋、ときどき、涙~
「これはもう、命令や!」


えっへん、と偉そうにふんぞり返った幸の首元で、おほしさまのネックレスがフフフと笑ったような気がした。


「うちの命令に逆らったら、ほんまにしばくで、真央」


それは困るよ、と苦笑いしたわたしを、


「ほな。したがってもらいましょか」


そう言って、くるりと方向転換させた。


背中を押されて、右足が一歩前へ飛び出した。


振り向くと、夕日を背に幸が笑っていた。


「女は度胸やで、真央」


頑張り、と幸がガッツポーズをした。


「過去を変えることなんかできん。それでもな、真央は真央やん。くさっても、これが自分なんやってとこを見せてやり!」


はよう、行って来い、と幸の手が動いた瞬間、いつかの光景がふわりとよみがえった。


以前も、こんなふうに、幸に背中を押してもらったことがある。


健ちゃんの過去を知り、わたしから一方的に連絡を絶ち、だけど、健ちゃんの方から会いに来てくれた日のことだ。


短大の銀杏並木が金色に輝く、秋の始まりだった。


あの日、健ちゃんとふたりで、ここへ来た。


この、夕日がきれいな、美岬海岸に。


あの時も、真っ直ぐ気持ちをぶつけてきてくれたのは、健ちゃんの方だった。


いつも、そうだった。


順也に言われた通りだ。


いつも、気持ちをぶつけてきてくれたのは健ちゃんで、わたしの方から気持ちをぶつけたことなんて、あっただろうか。


全力で、彼にぶつかって行ったことがあっただろうか。


なかったのかもしれない。


どうだろう。


だから、今度は、わたしからぶつかって行くというのは、どうだろう。


例え、答えがそこになくとも、結果がどうであろうとも。


きらきら、きらきら、さんざめく。


遠くに見える輝く水面を見つめて、わたしは小さく頷き、メッセージカードを握りしめた。


もう、遅いのかもしれない。


本当にもう、どうにもならないのだと思う。


でも、それでもいい。
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