JACK IN THE BOX

銀色の指輪(Sin‐scene0)

『僕、もうすぐ父親になるんです』

泥で汚れた頬を幸せで緩ませ、彼ははにかみながらそう言った。




「最近やけに仕事遅いのね」

真夜中近くになるまで帰宅しなかった愛しい人に、彼女は不安そうな視線を投げかけた。

「ごめん、今度の仕事ちょっとハードで。一日のノルマ終わらないと帰らせてくれないんだ」

心配した?と悪戯っ子のような瞳で問い、彼は彼女をその不安ごと抱きしめる。

「あと半月位でこの仕事終わるから。それまで帰り遅いけど許してね?」

「うん……」

彼女は小さく頷く。

温かい腕に包まれても不安が消えないのは、異国から来た彼と自分の肌の色が違うから。

そして、端正な顔立ちで優しい性格の彼が、彼と同じ出身の女性達に好かれているから。

「どうしたの?そんな泣きそうな顔して」

彼は彼女の頬を優しく撫でて小さく笑う。

「ママが泣いてたら、シンが心配するよ?」

そう言ってそっとお腹に触れた。

「大きくなったね」

「来月だもの、予定日」

「そっか、早いなぁ」

心底嬉しそうに彼は“シン”に話し掛ける。

「ただいま、シン。いい子にしてたかい?」

彼女は吹き出し、大事そうにお腹を撫でた。

「いい子にしてたって」

「そっか。えらいなぁ、シン」

早く会いたいなと呟く彼に、もうすぐ会えるわよと彼女が微笑む。

「だから、くれぐれも仕事し過ぎて体壊したりしないでね。私、貴方とシンが居てくれたら他に何も要らないから」

「ありがとう、サラ」

彼はもう一度彼女を抱きしめた。先よりも強く。

正規のルートで移住してきたとはいえ、この国では最下級層に居る自分。最近では『奴隷の子孫』として蔑視されている異邦人。

そんな自分と一緒になるため、親も家も捨ててついて来てくれた彼女が愛おしくて。

「愛してるよ、サラ」

その言葉に、想いに偽りは無かった。

重ねた唇の熱は彼女の冷たい不安を溶かしていく。

「リウが帰って来るまでシンと二人で待ってるわ。だからお願い、必ず帰って来てね」

「うん、約束するよ」

誓うようにもう一度口づけ、彼は彼女に優しく微笑んだ。


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