JACK IN THE BOX
誰よりも早く、朝一番に出勤なさるMr.レイズは必ず最初に私の様子を見に来てくださいました。

「よかった。根は枯れてなかったんだ」

何週間もかかって新芽を出せた時には嬉しそうにそう言ってくださいました。そして、特等席とも言える最高に日当たりの良い場所に私を置いて下さったのです。

もっと、彼に喜んでもらいたい。その一心で私は蕾を付けようと力を振り絞りました。

でも、弱った体で付ける事が出来た蕾はすごく小さい上に色が薄く、しかもたった一つだけだったのです。

私はがっかりしました。これでは、あの方を笑顔には出来ないと。

でも私の予想を裏切り、Mr.レイズはとても喜んで下さったのです。

「珍しい、藤色だ」

そして良く頑張ったね、と褒めてくださいました。今まで見たことが無い、輝くような笑顔で私を見つめてくださったのです。

その時の私の喜びを分かって頂けるでしょうか。私を助けてくださった方を、こんなに小さな花で笑顔にすることが出来たのです。


「また明日」

毎日帰り際に声を掛けてくださったMr.レイズは、ある日突然姿を見せなくなりました。

彼のデスクは綺麗に片付けられ、見たことのない恰幅の良い男性が昔からそこに居たかのように毎日腰を下ろしました。

もう一度、お会いしたい。

私の切なる願いをよそに、Mr.レイズは二度と現れる事はありませんでした。

そして長い日々が―――両の手の指を全て折るほどに長い年月が流れた後、ある男性が私をご自分の家へ連れて帰ってくださいました。

Mr.ルディアと名乗ったその方が言うには、Mr.レイズは姿を見せなくなった数週間後無実の罪を着せられ命を奪われたとの事。

このまま死んでしまおうかと真剣に思いました。あの方に二度と会えないのなら、と。

でも私は忘れたくなかったのです。あの方の笑顔を、声を、そして優しさを。

Mr.ルディアは私をお庭の真ん中に植えてくださいました。奥様が私に毎日お水をくださいました。

あれから私は毎年花を咲かせています。あの時より立派な花を、あの方が喜んでくださった藤色の花を。

『良く頑張ったね』

あの方の笑顔をいつまでも忘れぬようにと―――


《Remember you…… Fin》


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