JACK IN THE BOX
「わぷ、なにす」

「いいから」

はねのけようとする俺の手を止め、奴は白衣を深くかけ直す。

「こうしたら見えないだろ」

何が、と聞こうとしたが声にはならなかった。人に見せたくないそれは、すでに溢れてしまう寸前で。

「家でくらい肩の力抜け」

奴の大きな手がぽんと頭を軽く叩く。兄貴が昔してくれたのと同じ仕草。

どうしてだろう。自然と肩の力が抜け、熱いものが次々と頬を伝って落ちる。

どうしてこいつは何も言わないうちから俺の気持ちをわかってくれるんだろう。まるで兄貴のように。

「俺がいると素直に泣けないのなら席を外すが」

そう言って奴は立ち上がろうとした。

「……居てよ」

俺はしゃがれ声で引き止める。なぜか素直に言葉が出てきた。

「今は……一人、になりたく、ない……」

突然ぐい、と肩を引き寄せられる。奴は白衣の上から俺の肩を優しく叩いた。駄目だ。余計に泣けてくる。

「背が高いから大人に見えるけど、肩幅はやっぱり子どもだな」

「うるさい」

「そうやっていちいち反論するところとか特に」

「……」

素直に黙り込むと奴は再び楽しそうに笑い、こう言った。

「食べ物も、金も。好きなように盗っていい。さして執着もないんでね」

こんな廃屋に住んでる所からして変わり者だと思ったけど、話を聞けば聞くほどやっぱり変な奴だ。鼻をすすりながら俺は呟く。

「まともな部屋はあまり無いが、好きな部屋を好きに使えばいい。変わり者しかいない家だが、ここにいれば独りにはならない――」

奴はもう一度ぽんと肩を叩いて付け加える。

「――多分」

「……曖昧だな」

「いい加減な性格なんでね」

くすり、と。自然に笑いがこぼれた。泣き笑いだ。


希望の“き”。

兄貴と同じ事を言ってくれた、名前をセトナという自称医者。

訳わかんない奴だけど、彼のそばはなんだか居心地が良い。

もう少し、この白衣に隠れて甘えていよう。



それは俺が18歳の時、『シャドウ』と呼ばれて三年目の出来事。

彼との出会いが後の人生を変える事になるなんて、当時の俺は予想すらしていなかった。



《希望の“き”fin》


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