JACK IN THE BOX

希望の“き”[ミニストーリー]

希望の“き”。

兄貴が言ったのと同じ事を、あいつはさらりと口にした。



「調子はどうだ、くろすけ」

白衣を着た銀縁眼鏡の、自分を医者だという変な奴は俺の隣に座って笑いかけた。

「俺はくろすけじゃない!アツキだ!」

楽しそうな奴の薄茶色の瞳にからかわれてる気がしてむきになり、俺は思わず自分の名前を口にしていた。

まずい。俺はこの屋敷に盗みに入ったんだ。未遂とはいえ、いつ警察に突き出されるかわからないのに名乗るなんて俺は大バカだ。

そんな俺の焦りを気に留める様子もなく、奴はふんと一人で納得したように頷いた。

「アツキ、か。お前らしいな」

そして少し考えて続ける。

「見た感じも名前もエイジア系だな。字はどんな字を書く?」

俺は驚いて尋ね返した。

「あんた、俺の国の言葉知ってんのか?」

「多少な」

話せないが読むくらいなら出来る、と奴は答えてペンと紙を渡して来た。書け、と言うことらしい。

敦希。

生まれた国での自分の名前。

懐かしい文字を書いた瞬間、死んだ兄貴の事を思い出して胸が詰まった。

俯いて紙を突き出す。奴はそれを受け取り、こう言った。

「希望の“き”か」

名前をつけてくれた兄貴が言っていたのと同じ台詞。

こみあげてくる涙をこらえていると、奴は小さく笑って付け加えた。

「……字、下手だな」

「うるさいほっとけ。この国じゃ必要ない文字だからいいんだよ別に」

「必要ないなんて言うな。せめて生まれた時にもらった名前くらい大事にしろ」

何が言いたいんだ、と顔を上げた時、奴は俺の顔に自分の白衣をばさりとかけた。


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