捧げられし姫君


「三人、も…」


いくら一国の王の毒味とはいえ、多すぎる数字だろう。

ファラーシャの母国では考えられない。


「正直なところ、今の俺には信用出来る駒が足りない。

と、いうわけで、話を聞いたからには、お前にも協力してもらう」


イードはファラーシャを見て嫌味ったらしく笑った。


「協力って…」

「真実はこうだ。最近俺の周りを煩い小蝿がちょろちょろしていて、ゆっくり眠れやしなかった。

そこへ馬鹿正直に侍女も連れずにやってきた、利用価値の低そうな小国の姫君がのこのこやってきたわけだ。

様子を伺っていたが、この国の内情に精通しているわけでもなさそうだったので、そいつを使って罠を張ることにした。

こんな見え見えの罠に引っ掛かるか心配だったが、律儀に暗殺者はやって来てくれたわけだ」


ファラーシャが口を開く前にイードが一気に畳み掛けた。

早口だが、かなり失礼なことを言っているような気がするのは、気のせいではないだろう。


「俺は心が痛い」


突然、芝居がかった仕種でイードが言った。

表情は苦悩に満ちている。


「我が寵姫を暗殺しようとする者がいるなんて……。

と、明日から官共の前で嘆くから、心しておけ」


素晴らしい変わり身の速さでイードは元のイードに戻った。


「明日からお前に侍女をつける。お前に対して何か行動を起こした者がいれば、全てそいつに伝えろ」


理解するより速く進んでいく話に、ファラーシャは口が挟めないでいた。

要約すると、囮の寵姫になれ、ということらしいが…。


「ちょっと待って。それって凄く重要で、大変な立場なんじゃ…」


返事はない。

だが沈黙は、肯定を意味している。


イードは楽しげにファラーシャの顔が青くなるのを見ていた。


「身辺には気をつけろよ、ファラーシャ」


目の前の男が、ただの青年だったら、横っ面を引っ叩いてやりたかった。


< 26 / 37 >

この作品をシェア

pagetop